踏切のメトロノーム
小学6年生の時にリリースされたゲームミュージックのアルバム。
俗に言う初めて買ったレコードにあたる1枚になると思う。
この前作、「VIDEO GAME MUSIC」と「スーパーゼビウス」、「VIDEO GAME GRAFITI」(こちらはビクターよりリリース)があり、NGや深夜ラジオで紹介されていてどれも聴きたかったのだが、入手難易度と予算の関係で最新作のリターンオブ…を購入することにした。
「VIDEO GAME MUSIC」のカセットテープ版なら買えると算段して、お小遣いをためていたが、この「THE RETURN OF VIDEO GAME MUSIC」がリリースされてしまった。
ゲームの曲自体は少なそうだけどこっちがいいな。
近所の音響映像機器ショップで購入した記憶があるが、その店以外にも歩いてすぐの場所に貸しスタジオのあるレコードショップ+楽器屋さんもありいま思えばそれなりに環境には恵まれていたほうだったのかも知れない。
LPに封入されていたライナーノーツがまた会心の出来なので、今回はLP収録曲ではなくそのライナーにスポットをあてさせていただく。
ライナーノーツはかく語りき
さてさて、誕生日祝いか何かにかこつけて当時2500円のLPを手にすることがかなったのである。
そして聴いた。
SIDE Aのほうはナムコのゲーム音楽がサントラ形式(プレイ音も含めて)週力されていて大満足。
SIDE Bはというと、このLPの肝というか前作では細野晴臣のプロデュースによるサントラ+プレイ音源のミックス+エディットから大きく趣向を変え、オリジナル曲や未使用曲のアレンジが収録されている。
もちろん当時はそんなこと分かるわけもなく、ただ何となく聴いていたのだが(笑)
SIDE Bに収録されているこのトラックは、とても分かりやすいというか何よりもゲーム音楽的なのだ。
「MERRY GOES AROUND」(ホッピングマッピー・メインBGM)
その後この曲はホッピングマッピーのメインBGMとして使われたこともあり、カセットテープにダビングしてからはヘビロテしていた。
次第にテンポアップしつつ、音が重なり賑やかになっていくアレンジで、おもちゃ箱をひっくり返すイメージのような賑やかな曲になっている。
ボーカル曲みたいなアウトロもなくループもないのでバチッっと終わるところがまた良いのだ。
このLPを手にしたおかげで、先に出た曲が後からゲーム音楽にあてがわれるという胸熱な状態も味わえた。
LPに封入されているライナーノーツもちょっと洒落ている。トラックリストと同じ紙面に掲載されているのだが、「ドルアーガの塔」BGMの開発秘話として書かれた「MAKING OF DRUAGA MUSIC」がとても印象に残る。
紙質やフォントも含め雰囲気があるのだ。格式のある音楽LPだと言わんばかりに。
ライナーノーツを担当したのは小沢純子氏である。当時まだナムコの社員だった彼女だが、書き出しから雲行きが怪しい。
会社へ向かう途中の避けては通れない場所に、踏切りありそれがなかなか開かないらしい。
「この踏切って一体いつになったら高架になるんだろう」
いきなりこれである。
わくわく気分でLPを手に入れ開封したばかりなので面食らってしまった。
踏切りの遮断機の描写が切なげで哀愁が漂っているのだ。
なかなか開かない踏切りを毎日越えて会社までの道のり、遮断機の無機質な音がキンコンカンコン、人の気持ちなど構うことなく鳴り止まない。
ゲーム屋というものは皆こんな暮らしをしているのか….気が遠くなるでないか。
「なんだ東京ってだっせーな」と、子供ながらに内心そう思っていた。
ちょっと待てよ。ひょっとしたら、小沢純子は只者ではないんじゃないか。
ライナーノーツに顛末がリアルに描写されている。まるでOLの愚痴かボヤキだ。
” なんだか疲れたな、ここ通るのいつも待たされてるし嫌だな。でも遠藤さんが得意満面で顔のでかいカイを見せてきたり、大野木さんが歌詞をつけてくれたからハッピー。結果オーライ♪ ”
意訳であるが、つまり作曲家に起きた災難というわけだ。
” 怖くて迫力ある曲になったはずの、「ドルアーガの塔」FLOOR59のBGMを作り、カイの顔でかドット絵を打って得意満面の遠藤さんに聞かせたら、「ドルアーガ、くるくるくるくる、ドルアーガ、くるくるくるくる」と上司の大野木宜幸氏に軽薄な歌詞をつけられ、重厚なはずのBGMが軽薄な曲になってしまった。”
ドルアーガのドット絵がくるくる回っていてパッと見では何なのか分からない物体が踊ってる様に見えていたのだ。
ゲームを作った本人たちもそう思っていたのかと納得しながら驚いた。
このライナーノーツに描写されている顛末を読み、アルファレコードのロゴがくるくる回るのを見ながら聴いていたので心に刻まれたのかも知れない。
素敵で知的なお兄さんとお姉さんが作っているんだと勝手に想像してたのに、なんだこれは状態である。
「くるくるドルアーガ」
遠藤さんが社員(とくに女性)からモテモテだったのはこういうライナーでも読み取れるので、男は見た目じゃないぞと何気に勇気も与えていたのだろう。
そういえば、ゲームブック版のゼビウスでも古川尚美氏が遠藤さんのことをとにかくべた褒めしてるのでそれにも驚いたのだ。
あんたら神かよ・・・。
mono語り(その他雑感)
余談のほうをメインにして書いたので曲の紹介はこれくらいで失礼。
アルバムの収録曲はどれも前衛的なイメージで現在でも新鮮だと思う。
音色やアレンジ、エフェクトにはもちろん統一感があるのでアルバム両サイド通しても出来が良く環境音楽的に流しっぱなしでも邪魔にならない。当時の流行歌や映画音楽、クラシックとはまた一線を画する音楽だったのは間違いない事実だろう。
収録されているゲームBGMアレンジも担当した、上野耕路氏のオリジナル曲「MECHANISM OF VISION(NINO ROTAの自画像[JERRY GOLDSMITHもそこにいる](作曲・編曲:上野耕路)
6分以上あるのでかなり長く感じた。 何度聞いても味が出るトラックである。
CDでもいいまた買わねば。

収録曲目・THE RETURN OF VIDEO GAME MUSIC
2.GROBDA(作曲:慶野由利子)
3.DIG DUG II(作曲:慶野由利子、小沢純子)
4.DRAGON BUSTER(作曲:慶野由利子)
5.METRO CROSS(PART I)(作曲:大野木宜幸)
6.GAPLUS(作曲:小沢純子)
7.THE TOWER OF DRUAGA(作曲:小沢純子/編曲:小沢純子、上野耕路)
DIG DUG II(作曲:慶野由利子、小沢純子)
DRAGON BUSTER(作曲:慶野由利子)
METRO CROSS(PART I)(作曲:大野木宜幸)
GAPLUS(作曲:小沢純子)
THE TOWER OF DRUAGA(作曲:小沢純子/編曲:小沢純子、上野耕路)
9.META MAGIC GAME(作曲:大野木宜幸/編曲:飯尾芳史)
10.MERRY GOES AROUND(DEDICATED TO MARIKO KUNIMOTO)(作曲:大野木宜幸/編曲:国本佳宏)
11.STANDARD THEME(作曲:小沢純子、上野耕路/編曲:上野耕路)
12.MECHANISM OF VISION(NINO ROTAの自画像[JERRY GOLDSMITHもそこにいる。])(作曲・編曲:上野耕路)
13.METRO CROSS(PART II)(作曲:大野木宜幸、国本佳宏/編曲:国本佳宏)